TokunagaTsukasa | 徳永司

消費地からみた暦年代—瀬戸・美濃窯産陶器大窯編年を中心に— 鈴木正貴著を読んで

「筆者が理解できないのは、後者の遷移的にものの形状が変化することである。(中略)筆者の知る限り、これまでの日本考古学では遷移的な変化に関する理論的検討は放棄されてきたように思われる(鈴木 2019:75-76頁」

「個別のモノゴトの前後関係を誤って認識したままで、全体を論ずるのはナンセンスだろう。確かに、世の中が均質であって、一方向的に変化していくことを前提 にしていた方が、正しいかどうかは別として、モノとモノの時間的前後関係を決めるのには都合がいい。しかし、改めて考えてみるまでもなく、世の中の実体は非常に不均質なものなのだ。卑俗な言い回しだが、金持ちも貧乏人も世界中皆同じに変わっていく…、なんていうのはあまりにも嘘臭い(尾野1998)。」

型式にまつわるこれらの原理的問題には筆者も共感するところがある。しかし一方で、いささか原理的過ぎる様な気もする。この様な論理的検討は、放棄されてきたわけではない。山内清男は、縄文土器の大別と細別で、大別という認識を示している。また、その後の岡本勇の型式群や小林達雄の様式という大別的区分が存在する。矢野が指摘する通り、「考古学的な区別にいかなる意味を付与するかは研究課題としてありつづける。社会的あるいは文化的変化として重視する基準によって、大別内部に境界線を引いたり、大別をさらにおおきくまとめることは、土器の分析のみからもの可能である(矢野2008:11頁)。」
モノゴトの前後関係や遷移的にものの形状が変化するということは、考古学者の分類上の問題であり、その問題が過去に存在していたわけではない。当時の人々は、決して前後関係や遷移を意識して物作りを厳密な意味ではしていない。変化するということは自明であって、本来的に理解しなければいけないのはそれをどう分類すればいいのかということであって、ものの形状の変化の理解ではない。
その遷移やモノゴトの変化を考古学的にどう抽出するのかと言えば、層位学的手法によってである。層位学的手法と型式学的手法は不可分なものである。2つの層位を認識しても、両者に含まれる土器の型式学的な層位を認識できなければ、土器の時間差は認識できないし、土器の型式学的層位を認識できても、層位学的事例によって裏付けることの出来ない限り、型式学的な層位が時間差に起因するとはいえない(矢野2008:10頁)。

 冒頭で引用した両者のモノに対する、考えからはこの層位学的手法が抜け落ちているように感じる。

「確かに、世の中には風潮とか流行といったものがあり、同じ時代には似たようなモノが多いということには、理屈で理解する前に感性のレベルで納得してしまう 側面もあるのだが、だからといって似ているから同じ時代、違うから時期がズレると言うのは論理のすり替えでしかない。ある程度のバラツキは、同じ時代のモノの 中にも必ず存在しているの筈なのだ(尾野1998)。」

それは、そうなのだが、この指摘からも層位学的手法が抜け落ちてしまっている。窯の操業時期の問題や消費地と生産地などの歴史考古学特有の問題があることは承知しているが、層位学的手法が重視されていない感が否めない。

NA311号窯は、近年発掘が行われた灰原の残存が良好な窯跡のひとつである。しかし、灰原の土層記載はあるもののセクション図は掲載されておらず、どの遺物がその層に帰属するのかの情報が希薄である。窯に対する年代は、斎藤中世猿投窯の編年に当てはめられてその年代が求められている。もちろん、結果として遺構の前後関係と斉藤による中世猿投窯編年との前後関係と一致しているため問題はないものの、報告書内で層位学的な前後関係の検討がより詳細に行われるべきだろう。また、考古地磁気年代測定による年代測定が行われているのにもかかわらず、その年代に対する解釈も存在しない。

「焼き物の詳細な暦年代の推定については理化学的な方法は現実的ではなく(鈴木2019:67頁)」というたった1行で切り捨てるのではなく、徹底した細分層位による発掘を行うべきだし、積極的な自然化学分析を実施し、より精鋭なものにしていく努力が考古学側に必要であろう。地磁気の地域差による問題も考古学側の協力によってより精鋭なものになるはずである。同様のことは、生産地遺跡だけではなく消費地遺跡でも言える。生産地遺跡を意識した、分層発掘が消費地遺跡でこそ必要であろう。

結局のところ、発掘(地層)から遊離してしまえば時間的な前後関係は確固たる保証をもっては提示できない。どのような堆積状況で、どのような層準から、どのような産状で出土したのか、時間的な前後関係を検討すべきなのは発掘の最中であり、決して掘り上がって洗浄された遺物を見て検討すべき事ではない。よりジオ・アーケオロジカル(佐藤2009)な調査を実施すべきであろう。

参考文献
尾野善裕1998「モノと年代観」『京都国立博物館だより』第120号
佐藤正貴2019「消費地からみた暦年代—瀬戸・美濃窯産陶器大窯編年を中心に—」『中世土器の基礎研究27』日本中世土器研究会 67−77頁
佐藤宏之2009「地考古学が日本考古学に果たす役割」『第四紀研究』第48巻2号 日本第四紀学会 77−83頁
矢野健一2008「縄文土器の編年」『歴史のものさし』同成社 3-21頁

Prev 愛知県陶磁美術館(常設展)を鑑賞して Next 常滑窯の窯体構造について